パーキンソン病
パーキンソン病は、1817年に書かれたパーキンソン博士の著書にちなんで命名されました。この病気になると、手足が震えたり、筋肉の動きが固くなってスムーズな体の動きができなくなります。歩きにくくなり、体のバランスがくずれて転びやすくなる人もいます。
歴史のあるパーキンソン病ですが、その原因は現在でも不明なままです。最近の研究結果から、遺伝性パーキンソン病の一部の方で、遺伝子異常のため発症することが明らかになりました。新聞などで報道されたのでご存じの方も多いでしょう。しかし、パーキンソン病の大部分の方が、何故、この病気になったのか、その原因は未だに研究中なのです。それでも、世界中で精力的に研究されていますので、その原因がはっきりする日も遠くはないでしょう。
原因は不明でもパーキンソン病の人は、中脳の黒質という所のドパミン神経が減っていることが判明しています。ドパミン神経が少なくなり、スムーズな運動を行うのに必要なドパミンという神経伝達物質が足りなくなるのです。ドパミンが足りないと手足に力は入っても、パッパッとした素早い運動はできません。それまで上手にできていた仕事やスポーツがうまくできなくなり、パーキンソン病だったと気づく人もいます。片足がうまく動かず、脳梗塞になった人のように足を引きずって歩くようになり、後になってこの病気が判ることもあります。
このように特徴的な症状があるパーキンソン病ですが、頭部断層写真や脳波、血液検査など通常行われる検査に異常はありません。これらの検査は、パーキンソン病の症状と紛らわしい、脳梗塞などの病気と区別するために行われます。従って、パーキンソン病の正確な診断には神経診察という方法が必要です。これは医師が実際に患者さんの動きを見たり、手足の関節の動きの固さを触診したりして、神経の悪いところを確かめていく診察法です。パーキンソン病の症状が軽い場合は、神経診察による結果がはっきりしない場合もあるため、なるべく専門である脳神経内科医の診察を受けると良いでしょう。
パーキンソン病治療は薬物治療が中心になります。脳内のドパミン不足を補うために使われるL-ドーパ剤や、人工的にドパミン作用を持たせたドパミンアゴニストなどの薬があります。また、脳内ドパミンが減少するとアセチルコリンという神経伝達物質が多くなり過ぎるので、アセチルコリンを抑える薬が使われることもあります。その他にも、現在ではパーキンソン病の治療薬は数種類あり、実際に服用されています。重要なことは、個人毎に違う症状に見合った薬を処方してもらうことです。薬を服用していても少なければ効果は現れませんし、薬が多過ぎれば副作用が心配になります。どの病気でも問題になることですが、パーキンソン病は長期に渡る治療が必要なので特に注意しなければなりません。特に、L-ドーパ剤は最も効果的ですが、何年間も多く服用すると体が勝手に動く不随意運動が出たり、薬の効き方が一定せずに、薬を服用していても体が自由に動かない時間がでてきます。このため、ドパミンアゴニストなど数種類のパーキンソン病治療薬を組み合わせて服用することが多くなっています。また、同じ人でも症状の程度に合わせて薬の服用量や種類は変わっていきます。治療が長期になる程、必要な薬用量は増えるのが普通です。薬に払うお金も増えてしまいますが、パーキンソン病のために歩行不安定でバランスがうまくとれない方は治療費が公費負担になります(北海道の場合、主治医に相談して特定疾患の認定が必要です)。
パーキンソン治療薬を服用しても以前のように効果が無く、症状が一日の中でも一定しない人、手足の震えや不随意運動が出る人、副作用のため治療薬を充分に服用できない方は脳手術による治療法があります。これまでに薬剤服用の効果がほとんど無い方には、残念ながら脳手術でも効果効果はありません。パーキンソン病の脳手術は、淡蒼球や視床、視床下核という名前のついた脳深部にある神経組織に人工的操作を加えるものです。症状によって異なりますが、最近はこれらの部位に細い電極を入れておいて、心臓ペースメーカーのように電気刺激を行う治療法が主流になっています(脳深部電気刺激療法、DBSとも言う)。近い将来、遺伝子治療や神経細胞移植などが可能になると思われますが、現時点ではまだ実験段階の治療です。
パーキンソン病になると疲れやすくなるのですが、日常的な運動を続けることは非常に大切です。器具を使った大げさなことは想像しなくてもけっこうですが、散歩したり関節を伸ばしたり(歩行練習、柔軟体操)、疲れをあまり残さない程度の、適度な運動はできるだけ続けましょう。普段の生活で、自分のことは自分で動いて用を足すように心がけると良いでしょう。
パーキンソン病は、約千人に一人の割合でかかる病気ですが、今後はもっと増えることが予想されています。治療法に関しても、年々進歩がみられていますから、時々は主治医の先生に病気に関する最新情報を教えてもらいましょう。