1)“てんかん”って、なに?

 “てんかん”とは、聞いたことがあるが、正しく答えられる人は少ないと思います。“あわを吹いて倒れる病気”と答える人は、以前、どこかで見たことがあるのかもしれません。

しかし、この答えでは、なんだか理解できません。言葉には定義(辞書で調べる意味のようなもの)というものがありますが、“てんかん”については、世界保健機構(WHO)というところが、その意味を決めていて世界中で広く知られています。曰く“種々の成因によってもたらされる慢性の脳疾患であって、大脳ニューロンの過剰な発射から由来する反復性の発作(てんかん発作)を主徴とし、それによって変異に富んだ臨床ならびに検査表出が伴う”とのことです。さらに、わからなくなった方が多いかもしれませんが、これは、医者向けに決めた言葉だからです。

 やさしく言うと、“脳にある神経細胞が、働き過ぎて症状を出す病気。原因は様々で、症状は一時的ですが繰り返して出現します。”というのはいかがでしょうか?私よりも先輩の偉い先生方は、端的に、“いつもは普通の人と変わらない人に時々てんかん発作が起こる病気(掛川紀夫著、てんかん病 専門医からのアドバイス)”、さらにわかりやすく、“何らかの原因で脳細胞から余分は火花が散って、それによってけいれんの発作が引き起こされてくる疾患(杉本建郎ら著、てんかんをなおそう)”、“大脳の病気で、症状として自発性の反復する発作を特徴とする。・・・神経回路網には・・・非常に精巧な機能が働いています。このような機能をはたす神経回路網に異常が生じ、正常な機能でない異常な機能としての発作、つまりてんかん発作が起こるようになります。(八木和一著、やさしいてんかんの自己管理)”と説明しています。

 つけ加えて説明しますと、脳には多くの神経細胞がありますが、これらは互いに繋がっていて、ある目的のために活動しています。ちょうど、みなさんが見ているインターネットで各コンピューターが繋がっているようにです。さらに、各々の情報は電気信号で伝えられます。これもインターネットに似ています。しかし、一部あるいは全部の神経細胞が、働きすぎると、脳の正常な機能は一時的に失われ、場合によっては、働きすぎによる症状があらわれます。これが“発作(てんかん発作)”です。“てんかん”という病気は、様々な原因で、“発作”が繰り返し起こる病気です。

 ですから、“発作”にまきこまれている神経細胞の本来の働きによって、症状は様々です。本人の記憶はあるのですが、手あるいは口がけいれんする発作、しびれる発作、光が見える発作、音が聞こえる発作、いやな臭いの発作、言葉が出ない発作などがあります。また、本人の記憶はありませんが、じっと動きを止めて呼びかけに反応しない発作、ある程度反応するが状況にそぐわない行動をする発作などがあります。さらに、体をピクつかせる発作、倒れる発作、力が入って硬くなる発作などもあります。決して、全身をけいれんさせる発作だけではありません。大切なのは、発作は一時的で、発作が無いときは、普通である方が多いことです。

てんかんの有病率(患者さんの数)は、報告により若干異なりますが、おおむね200人に1人程度と考えられます。あなたの友人・知人は、年賀状の数(この原稿を書いているのは12月でしたので。)でも判りますが、おそらく200人以上はいるでしょう。すると、そのうちの1人は発作を持っている人ということが言えます。どうでしょうか?実に多い病気だと思いませんか?そんなに多くの人が患っている病気について、もう少し知りたいと思いませんか?

 

2)“てんかん”は、なぜおこる?

 先ほど述べたように、原因は様々です。これでは、つまらないでしょうか。恐らく、あらゆる脳の病気が原因となります。例えば、脳の形成異常、脳炎、髄膜炎、脳症、外傷、脳腫瘍、脳梗塞、脳出血、変性疾患など、さらに、てんかんとは言えない場合もありますが、代謝性疾患、内科的疾患、薬剤性でも繰り返し発作が起こることがあり、注意が必要です。また、脳の病気(脳炎、脳腫瘍など)の始めの症状として、発作が起こることがあります。でも、原因が明らかでない方も多くいます。気に止めていただきたいことは、感染する病気ではないこと、さらに、遺伝性の病気は少ないことです。いずれにしろ、原因は様々ですので、発作が新たに始まった方は、脳外科・神経内科で検査を受けられることをお勧めします。当院では、原則的に入院検査を勧めています。これは、集中的に高度の検査を行う必要があるためです。陰に原因となる病気があるかどうか検索することが重要であるからです。

 

3)“てんかん”は、なおるの?

 治療として、日常生活の注意、内科的治療(くすりをのむ)および外科的治療があります。現在はくすりを服用して発作を押えることが主流です。くすりをのむにあたっての注意には、様々な大切なことがあります。各々の患者さんで異なるので、主治医の先生に聞くほうがよいでしょう。もう少し詳しく知りたい方は、前出の本が参考になると思います。発作が薬では止まらない一部の方に対して、外科的治療が有効である場合があります。(てんかんの外科治療にリンク)

 

4)中村記念病院では“てんかん”をどうやって診ているの?

  先にお伝えしたように、“てんかん”は多い病気です。ですから、当然、多くの患者さんを診ています。2000年1月から12月まで、神経内科から退院した患者さんは716名で、うち“てんかん”の患者さんは117名(16.3%)でした。

 初診の患者さんには、入院検査を勧めます。これは、先に述べたように様々な診断機器で原因を検査することと共に、診断を確実なものにし、さらに今後の治療方針の決定に有用だからです。救急部は24時間、発作を起こした患者さんを受け入れます。多くはありませんが、緊急入院が必要なこともあるからです。

“てんかん”を診療するのは、主に神経内科医です。毎日、外来に出ています。てんかん学会会員は2名で、うち1名は臨床てんかん専門医の資格を持っています。治療の難しい患者さんは、てんかんの詳しい知識を持つ高名な院外の先生方にお願いして、不定期ですが検討会を開いています。手術適応についても、そこで検討されます。てんかん学会会員であり専門病院で研修を受けてきた脳神経外科医が手術を担当します。2年前から手術を始めていますが、現在までのところ良い結果を得ています。また、時期によっては治験を受け入れて、新しい薬が患者さんのためになるかどうかを検討しています。

以上、簡単ですが、“てんかん”について少しでも理解していただければ幸いです。ご意見・お問合せは神経内科宛にメール(neurosur@med.nmh.or.jp)をどうぞ。